自己紹介
- 名前:yuuki
- 役職:ChatGPT調査担当
はじめに
実はShinonomeという会社は、学生にプログラミングやデザイン等を勉強してもらい、コミュニティ内で相互に教育し合いつつ、修了でき次第私達と一緒に案件に入ってもらうことを事業のひとつとしている会社です。
そんな中現在、ChatGPTやMidJourney等の生成AIが非常に流行しております。
"教育"がキーワードとなっている弊社からの視点で、生成AIが教育にどんな影響が出るか少し考察してみようと思います。
結論
以下、最初に箇条書きで筆者の意見を書いてから内容を書いてみます。
- 生成AIは必ず教育現場に参入する
- が、しばらくは公的に利用を推奨されず、学校よりも学習塾や家庭学習の方が早く利用される
- データセット等の倫理的な課題と、学ぶ側教える側それぞれの技術的な課題が壁となる可能性が高い
- 学ぶ側は一問一答や論述に加え、革新的/創造的なアイデアを求められる場合が増えてくる
- 教える側は、主に海外でAI一本での教育が進むが、学校では人間とAIの共存の形で教育が進んでいく
生成AIがこれだけ有用だということが認められている中、質問応答等が得意なChatGPT等のチャットボットは教育現場も無視できないでしょう。しかし、それを学ぶ側も教える側も使いまくり…とはすぐいかないかもしれません。
そう思う理由についていくつか書いてみます。
生成AI側での課題
- データセットの著作権問題
- 倫理的/道徳的な問題の担保
- "機械に合わせる人間"ではなく"人間に合わせる機械"になれるか
現在、生成AIはインターネット上にある大量のデータを学習し、返答や成果物を生成しています。その大量のデータの内容はどんなものかというと、必ずしも公開されていないのが現状のようです。代表的な生成AIであるChatGPTの学習データは非公開になっており、MidJourneyやNovelAIでは版権データに近しい絵が生成可能で、個人/企業問わず著作権で保護されたデータを含む可能性が高いです。幼い子どもでも使用できると考えると、著作権を犯しかねないデータが入っていたり、そもそもデータ内容が不透明な状態では信頼性に欠けてしまい、すぐに導入という訳にもいかないでしょう。保護者や教育者の信用問題的に壁となると考えます。
ではデータの透明性を保ちつつデータ内容も権利的に正しいものを使うだけで良いかというと、次はデータの量と質の問題が立ちはだかるのではないかと考えます。現在未公開ではあるものの、GPT-3の学習データは570GB以上、GPT-4の学習データは30TB以上とも言われており、『grokking』と呼ばれる現象に乗っとるとなるとやはりデータ量は確保したいところです。それだけのデータを集め、かつ権利に問題がなく学習に使えるような優れたデータを集めるとなると、相当な努力が必要になります。
そもそもの問題ですが、現在のChatGPT等の精度で教育現場に使えるか?と問われて、100%イエスと答えられる方もなかなかいないかと思います。精度の問題もありますが、より踏み込んだ個人的な意見として、これには機械と人間のどちらを基準とするか?といった考え方が関わってくるかと思います。現在人間の方が多く作業をしており、人間の方が多く評価をしています。例えば人間の作業を減らそうと思ったときに、代わりに作業をするのは何でしょう?私は機械だと思います。ということは、機械が作業しやすいように、人手で整備してあげる必要があります。そのため、"機械に合わせる人間"が必要になっており、これはデータ分析や業務効率化等で現在も必要になっているかと思います。これを、機械が人間に合わせられるようになることが、将来的には努力目標として必要になるのではないかと思います。さらに人間が評価するように多角的に機械が評価できれば、いよいよ人間と機械が肩を並べるようになってしまうかもしれません。
人間側での課題
- 老若男女問わず生成AIを使える知識が必要
- 倫理的/道徳的な問題の落とし所
- 機械に勝てない弱みを認め、機械に負けない強みを作れるか
教育現場に生成AIが入ってきた場合、前提として筆者は人間側も共存する方向で動いていくと思います。そうすると、人間側はなにか新しく知識やスキルが必要になるのでしょうか。
その一つとして、生成AIを使う際の知識が必要になると考えています。それはプロンプトエンジニアリングといわれるAIへの命令文のテクニックであったり、AIの基礎知識であったりするでしょう。また、現在まだ生成AIが正しくない情報を出力する場合もあり、出力の質を判断する能力も必要になります。学ぶ側教える側それぞれに対し指導する人材も必要になるかもしれません。
そして倫理的な問題の落とし所も人間側で付ける必要があるでしょう。先日大阪大学も倫理的・法的・社会的課題(ELSI)の論点について、各企業や各分野でのコメント等をまとめたノートを発表していました。下記は該当ノートの教育分野での記載となります。
学生がChatGPTを使った事例も紹介されていますが、こちらのノートでは、教授が学生に送信したメールにChatGPTを使用したことで批判が集まり謝罪する必要が生まれたようです。学生がAI使うことは仕方ないという見方が潜在的にあり、逆に教授や大学側がAIを使うことには懐疑的といえるかもしれません。
公式での文面に対してAIを使って自分の言葉を使わないことに対する精神的懸念が課題なのだとしたら、その課題への落としどころをどうするのか決めるのは困難ではないかと考えます。また、他にも著作権や有害なコンテンツという概念についても触れられていますが、『有害なコンテンツ』という言葉ひとつとっても、領域や判断する人によって変化してしまうため、しばらくの間AI開発者の倫理に委ねる可能性もあります。技術者倫理の教育の重要性も上がってくるかもしれませんね。
課題などなどを踏まえた未来
以下の表は『GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact Potential of Large Language Models』というOpenAI等が共著であげた論文(正確にはワークペーパー)より引用しています。Humanを人間、ModelをGPT-4として、LLMモデルを使ったAIがどの業種に影響を及ぼすか判定したものになります。業種を見ると、主に会計士、ジャーナリスト、数学者、翻訳者、ブロックチェーンエンジニア、ライター・作家などの情報加工業やクリエイティブ業寄りの職業が並んでいます。
実はその中に学校教師は入っていないんですね。
それを踏まえて筆者は、AIが教育に参入するが人間側の仕事がなくなるわけではなく、教える側の教える領域が変化すると考えています。筆者は、AIが学校教育の存在意義まで揺るがすものとは考えておりません。特に日本では人間とAIが共存という形が主流になると思います。海外についてはAIのみでの教育の形を模索する動きがより多く動くと思いますが、日本の学校でAIのみの教育を採用することは相当大きな価値観の変化が無い限り難しいと思います。
主な理由としては、人間同士のコミュニケーションを育てるには人間による教育が一番必要になると考えられるからです。人間同士のコミュニケーションは、文字面だけでなくトーンや身振りなど、非言語情報によるコミュニケーションが多分にあります。それらの指導は人間でなくてはならないでしょう。筆者は、そういった考え方は日本に深く根付いていると感じており、価値観の変化に時間がかかると考えているため、海外より日本の方が共存という形を取りやすいと思います。
一方で、数値計算や知識面、そしてプログラミングのバグ発見等についてはAIの方がクオリティが高くなる可能性が高いです。そのため学ぶ側が問題を解くこと、知識を覚えること、プログラミングを試すことのサポートはAIを頼る方にシフトするかもしれません。その分、なにかを伝える、作って発表する、人同士で協力するという系統のものに人間が必要となると考えます。
そうなると学校は知識だけではなく、コミュニティで生きる能力やコミュニケーション能力を養う場としての役割の割合が増える可能性は考慮していく必要があるでしょう。また学校内でも、教える側がテストの採点や解説について、AIを頼る場面は増えるのではないでしょうか。昨今問題となっている学校教師の採点や課外活動による長時間残業問題の解決に、AIが一役買う可能性は大いにあるでしょう。結果として学ぶ側が1人で完結できる家庭学習や一問一答の採点についてはAIが、誰か相手が必要なものについては人間が優位となり、AIと人間が共存していくのではないかと仮説を考えております。
またこの仮説は逆にいうと、受験のために学習塾や進学塾に通うように、自分の学習理解や成果物作成のためにAIを活用することが増えるとも考えます。となると、AIを上手く使いこなすための学生向け塾が新しくできるかもしれません。もしかしたら、生成AIの競合先としては、むしろ学習塾や進学塾といった学習支援の場を提供している業界になるかもしれませんね。
おわりに
この前ChatGPTと話してる途中に、試しに以下のように聞いてみました。
ということで、個別学習支援用GPT搭載生成AI、作っちゃいますか!という方がそこそこ出てきたり、コーチング系のサービスが立ち上がるような流れは続くと思います。
そうなったとき、AIに負けないコミュニティやコミュニケーション能力が人間の価値となり、Shinonomeという会社の価値が上がるかもしれませんね。笑
参考文献
(上記の日本語参考サイトも一応載せときます)
(以下その他に参考にした記事です)